犬の新しい家が決まった
支離滅裂に母にキレられて、私はもう母と口をきくのも嫌になりました。
それでも母は、いっさい反省するそぶりもなく、こちらを責め続けていました。
旦那が母に、「こんなのでごめんね。今は臨時だしお金もないから、全てが安い物しか買えないけど、そのうち落ち着いたら、ちゃんとしやつに変えるから。」と言ってくれました。
そうしているうちに、犬を見に来てくれる方から到着するとの電話があり、ただ、うちの場所が入り組んでいてわかりにくいため、迷っているようでした。
とりあえず、徒歩2~3分のわかりやすいところにいるようなので、そこにいてください、こちらから向かうのでと言って待機してもらう事にしました。
じゃあ、犬を連れて行こうと旦那が言うと、母は「そんな所まで歩けないよ。だから断ろう。○○ちゃん(旦那の名前)断ってよ。」ととんでもないことを言いだしました。
それならいいよ。俺が一人で行ってくるから、犬をこっちに渡してと旦那が言うと、さすがにそれは悲し過ぎるらしく、結局一緒に行くと言って二人で向かって行きました。
私はちょうど、電話が一本入っていて、その後向かおうと思ったけど、なんだかもう心が疲れ切ってしまっていて、おじさんの別荘に入ったら動けなくなってしまいました。
そして、あんな母であることが、とことん悲しくなりました。
しばらくして、すっかり機嫌を直してまるで鬼から仏モードになったような母と、旦那が戻ってきました。
どうやら、引きとってくれたとのことです。
今回、里親になってもらった子は、私が実家に行くとずーっと吠え続けてくるくらい、正直懐っこさがゼロの子でした。
でも、どうやら里親になってくれた方、Mさんの前ではかなりおとなしくしていたようです。
Mさんは、夫婦で来てくれていて最初はやっぱり、汚れきっている犬を見て、ちょっと躊躇したと言うか、黙ってしまったそうなのです。
正直見た目だけで言うと、野良犬も同然のようでした。そんな子を差し出されて躊躇してしまうのも仕方ないのだと思います。
そして、何があったか火事のことを説明して聞いてもらっている間や、当たり前のことだけどワクチンの有無などを聞かれると、ことあることに母は「もらってくれなくてもいいんです。私が育てますから」とさえぎり、その都度、旦那が母を叱ったらしいです。
Mさん夫婦も、そんな母にかなり最初は戸惑っていたらしいけど、火事の話を母がしだして、「私が全部悪いんですと」と泣き始めると、それまで黙り続けていた旦那さんが、「これはもう引き取る以外の答えはない!」と言ってくれて、奥さんもすぐにそうだね、と言ってくれたそうです。
そして、ちゃんと大切に育てるんで、安心してください。時々は、連れてきますよ、と言ってくれたそうで、ジェットコースターみたいな機嫌の持ち主の母も、すぐにお礼を言って、委ねることにしたそうです。
火事なんて大不幸に遭っても、それでも人の善意はなんてありがたいものなんだろうと感じました。
そのまま連れていってくれて、すぐに病院に連れていってくれたそうです。
実は、この犬の里親話には後日談があるのですが、それはまた後々書きます。
そんな一部始終の報告を聞きながら、私もMさん夫婦に会いに行けば良かったなと思いながらも、もうその日は母と口を聞く気にもなれず、目も合わせませんでした。
でも母は、その日はずっと上機嫌で、寝るまで、本当にいい人達にもらってもらってあの子は幸せだ、私のそばにいるより幸せだ、と満足そうに何度もつぶやいていました。
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母キレる
そしておじさんの別荘に戻った後、前日に一睡もできなかった私は、横になるなり眠りに落ちました。まだ、20時を周ったくらいだったと思います。
その後、夜中くらいだったと思うけど、旦那と母が話しこんでいるのが聴こえて目が覚めたけど、結局起きられず再び意識が落ちました。
朝になって、どうやら昨夜母が、メス犬の子を手放す決心をしたということを旦那から聞かされました。
実家には、昔から犬がたくさんいることが市内では有名だったため、庭に犬を捨てて行く人もいたし、警察署から迷い犬の引き取りを依頼されたことも何度かありました。
そして時々、子犬が生まれてもらい手を探したこともあったし、犬が欲しいとの問い合わせなんかもあり、先日来てくれた消防士さんの中にもそんな一人の人がいたのは書きましたが、ちょうど一週間前にも子犬が欲しいとの問い合わせがあったばかりだったらしいのです。
その時は、まさかこんなことになるとは思っていもいなかったので、今はいませんと断ったらしいのですが、母はその人に聞いてみたらどうだろうと思ったようです。
ただ、その人が希望しているのはオス犬でしかも子犬が希望。犬はメスの上、もう一歳になっており、全く希望には添えないのですが。
そして電話番号をメモした紙も燃え残っているかわからない。
でも、
運命と言うべきか、その紙が燃え残っていたのです。
母が電話をして事情を話すと、とにかくすぐにでも会いに行きますと言ってくれたそうです。
午後にその人が来るので、それまではとにかく燃え跡の後片付けや買い出しをすることにしました。
燃え跡を歩いていると、まる焦げになったおばあちゃんの古い箪笥から母のアルバムを見つけたので、それらを回収しました。
箪笥は端っこの方にあったので、中身はほとんど燃えずにあったものの、ゴミ屋敷でもうだいぶほったらかしになっていたのと、火を消す時の放水の水の影響で、どうしようもなさそうな写真も多かったけど、それでも何枚かは無事だったので、バラして乾かすことにしました。
それからおばあちゃんの形見の着物や帯なんかもとりあえず取り出しました。
庭にある、母の趣味の園芸のために建てられていた大きめのビニールハウスも、火はそこまで来なかったようだけど、ビニールが熱で溶けだして、穴が空いてしまっていました。
母が、それを直して、外の犬の為の犬小屋にしたいと言い出したので、しょうがないと思い、旦那と買い出しに行った時に、300円のブルーシートを買って、それで臨時的に直すことにしました。
しかし、そこでまたしても思いもよらないことが起こりました。
旦那と私が二人でそのブルーシートを使って修繕を始めてすぐに、母がそれを見てキレだしたのです。
「なんでこんなペラッペラの安物のビニールシートを買ってきたんだ!これじゃあ、犬が可哀想だ。たかだか数千円とかできちんとしたものを買えるのに、何考えてるんだ!犬が大事じゃないからだろう!?こんなのでいいやって買ってきたんだろう。」
さすがに私もカチンときて言い返しました。なんて返したかは怒り過ぎてあまり覚えてないけど。
こんな時にまで、お犬様なのか。
本当は、こんなことしてるなら、早く燃え跡の片づけをした方がいいし、たかが数千円だなんて、お金も家もないこんな時に良く言えたもんだ。
でも母は、いっさいひるまず、鬼の形相で「これでいいってどっちが言いだしたんだ?こんな安物買おうってどっちが言いだしたんだ?」と、私と旦那にくってかかってきました。
さすがに私も本当に頭にきていて、それでも譲りませんでした。そしたら、母は暴言を吐いてどこかに去って行きました。
もう、一人だったら確実に、母を見捨てて、住んでいるところに戻っていたかもしれないです。
でも、朝から文句ひとつ言わずに、市役所への手続きやら買い出しやら走り回り、そのうえ自分の仕事のことで会社の人ともやりとりし、一番大変な役を引き受けてくれている旦那が私をなだめました。
「お母さんもたぶん、可愛がっている犬を突然手放すことになって気持ちも荒れているんだろうしさ・・・」
家を燃やして、しかも以前旦那にも噛みついたことのある犬の為の小屋造りなんて、私にとっちゃ正直どうでも良かった。(そもそも、犬小屋自体はちゃんとありますし)
でも、旦那がこらえて作業を進めてくれているので、私も一緒に進めました。
だけど、私も怒りを伴ったままだったので、集中できなくて、ハサミで手を切ってしまいました。
急いでおじさんの家にバンドエイドを探しに行くと、ちょうどまた近くに住んでいるおばさん(母の別の姉)が来ていたところでした。凄い勢いで、おばさんに私と旦那の悪口を言っていたらしく、「そんな事言うもんじゃないよ。みんな一生懸命やってくれてるんだから。」と、あやされていました。
そしてまた私の姿を見つけると、これまた一生忘れられないような形相で私に迫って来ました。
「おい!どっちが言いだしたんだ?ちゃんと答えろ!!」
私も更に怒りで言い返しながらも、今にも殴って来そうになる母とそれをとめてくれているおばさんに、それどころじゃない、手をはさみで切ったと言って振り切りました。
結局、おじさんの別荘にはバンドエイドは見つからなくて、おばさんが急いで自分の家にバンドエイドを取りに行ってくれました。
とりあえず、ティッシュで押さえたけど、血が滲んできました。
母と二人になるのも嫌だったし、旦那を一人で作業させているので、文句を言ってくる母を無視して、旦那の元に戻ることにしました。
そんな私の背中に向かって母は、「ぼさっとしているからだ」と更に暴言を吐いてきました。
もう、親じゃなかったら、とっくに縁を切ってるとつくづく思いました。
こんな人。自分の親だけど、本当に心から思った。
”なにこのひと。頭おかしいわ。”
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臨時の家が決まる
現場聴取が終わった後、隣にあるおじさんおばさんの別荘の家にみんなで戻りました。しばらく、ここを使わせてもらうことになりました。
そして母は、戻ってきていた犬を抱えて当たり前のようにおじさんの家に連れ込もうとしておじさんに怒られました。
「軒下にはつないでおいていいから、家にはあげないでくれ。」
でも、怖い目に遭わせてしまったから、この子だけはと母は言ったけど、おじさんは犬嫌いの上、トイレのしつけもできていない汚れた犬を家にあげるなんてとんでもないこと。
それに、これを許可したら、もう母は好き勝手するだろう。つまり、信頼されていない。
犬に罪はないけど、おじさんおばさんの善意で家を使わせてもらう立場なのに、本当に母は自分の考えでしか動いていない。
母は、しぶしぶ軒下にその子を繋ぎました。
確かに室内犬で暮らしていた子が突然外で暮らすなんて、犬からすれば大変な状況だけど、でも今はそんなことすら言っていられないくらい私達はとんでもない状態で、なんてったって家がないのです。
こんな風に家を使わせてくれるいとこがいるだけでも、本当に救われていることなのです。
ホテル暮らしなんて、とてもじゃないけどできないし、(そもそも田舎なのでホテルがほとんどないのだけど)それもこれも、選択肢がないのは母がお金を全部、犬に使いこんできて貯金がゼロという有様なのも大いにあるし。
そして母がまた口にしたのは、「あの子が過ごせる犬小屋を買いに行きたい。犬小屋と言うよりも、もっと家っぽい立派な場所を買ってあげたい」と言いました。
自分達の家もないのに、そしてお金も全くないのに、母が言うのはそれです。
「あの子は、もらい手を探そうよ。他のオス犬は凶暴だから難しいけど、あの子だったら小型犬だしすぐに見つかるよ。」そう言うと、お前たちのところで飼ってあげてくれと言います。
正直、私には全く懐いていないし、私の元にはすでに一匹、実家から連れて行った子がいて、その子だけで今は手いっぱいです。相性も悪く、無理だと思う犬を増やした所で、母の二の舞だし、犬にとってもいいことだと思えません。そのことを私は本当に良く知っています。
断ると、じゃあ知らない人にあげるなんてできない。絶対に嫌だ。そう母は言い張りました。
今は犬どころか、自分の住む場所だってどうなるかわからないんだよ!?そう言っても、全く通じませんでした。
旦那が、「こんな火事で何もかも失くしていて、お見舞金をみんなからもらって、そのお金で立派な犬小屋を買ってたら、周りの人はどう思うと思う?」と言うと、母はさすがに黙り込みました。
その日はとりあえず、おじさんおばさんは同じ県内の車で1時間ほどの離れたところにある自分達の家に帰って行きました。
そしてありがたいことに、市役所から電話があり、実家から徒歩5分くらいのところにある団地の一室を臨時で貸しますとの報告がありました。
ただ、急な話なので、室内はリフォームしていなくてかなり汚れていて、電気ガス水道も、自分達で手続きしないと使えないとのことでした。
それでもなんでも、話をした数時間後にもう場所を提供してもらえるなんて、どれほどありがたいことか。寝泊まりできる屋根と部屋があるのは、本当にありがたい。
何より、そもそも実家はゴミ屋敷だったんだから、それに比べれば天国でしかない。
すぐに市役所へ部屋の鍵を取りに行き、団地へ向かいました。
そこは、小さい頃たくさん友達が住んでいて、毎日のように遊びに行っていた場所でした。部屋の中にも入ったことがあって、まさかここに自分が、正しくは母がだけど住むことになるとは思ってもみませんでした。
部屋は2部屋あるし、ちゃんとお風呂やトイレも付いているし、確かに畳はぼろぼろだし、床は汚いけど、そうじすれば明らかにあの実家よりは遥かにいいです。
ひとまず、まだライフラインが一切使えないし、すでに夕方でもあったので、ひとまずおじさんおばさんの別荘に戻りました。
夜になり早速、母は軒下に繋いだ犬をおじさんの家にあげようとしました。
あんなにおじさんと約束したのにも関わらず、黙っていればわからないからそう言いながら。
さすがにそこで、旦那が怒りました。
「お母さん、そうやって勝手にしてきて、大丈夫大丈夫って言ってやってきたことが火事を起こしたんじゃん!こんなに迷惑をみんなにかけておいて、まだ約束すら平気で破るの?それは間違っているでしょ!!」
旦那も朝から、母に気を使い励まし、すでに始まっている役所との手続き関係を率先してやってくれていてかなり疲れている状態。
何より、一番優しい言葉をかけてくれている旦那に怒られたのは、さすがに母にも響いたようでした。
母には、旦那という存在がおらず、怒ってくれる人がいませんでした。
いとこや私からは怒られても、そのたびに腹を立てて逆ギレし、もはやみんなお手上げ状態で何も言えない、言わないような状態になっていたのです。
だけど、今までもずっと優しく接してくれた旦那に怒られたのは、ちょっとは目を覚ますきっかけにもなったようでした。
その後、母のかたくなな心が動きました。
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火事現場の後始末についてのアドバイス
現場検証の途中、もう私は母の顔を直視できないでいました。
責めてしまいたい気持ちもあり、だけど可哀想に思う気持ちもあり、自分の気持ちがどうしようもないのです。
だけど、そんな中旦那がうまく私と母の両方に声をかえてくれていました。
私が、母のそばにいなかった時に、途中で旦那が母に声をかけたら、あの子達(犬)が可哀想だと堰を切ったように号泣し出したそうです。
犬は3匹、全員外飼いの犬でオスです。実は、家の中にはメス犬がいたのですが、そのうちの一匹の犬は火事の時に遠くへ逃げて行くのを母が見たらしく行方不明状態、そして、もう一匹の室内犬の子が庭の片隅で震えているのを見つけました。
ところどころ毛が焦げてしまっていたけど、大やけどを負っているようすもなく、ただ精神的ショックで動けずにいたようです。
母はその子を抱えて、また少し泣いていました。
そんな中、隣の別荘の持ち主のいとこのTおじさんとおばさんが離れた街から到着しました。
おばさんは、母の実の姉で、普段からかなり母を可愛がり、もちろん私のことも小さい頃から気にかけてくれている人です。
おじさんはあばさんの旦那で、自由気ままに生きている母をあまり良くは思っていなく、たびたび母とはぶつかってきたものの、私の事は気にかけてくれていて、私が家を出て一人暮らしをしていた頃から、一人で良く頑張っていると、唯一褒めてくれる人でした。
私達の所に来ておばさんは、母の無事を喜んでくれていたけど、おじさんはなんとも言えない顔をしていました。
もう、実の娘の私にもおじさんは冷たい態度をとるかもな、そうなっても仕方ないくらいのことだなと思いました。でも、おじさんは、消防や警察の人と軽く冗談話なんかをすると、「娘は連れて行っていいでしょう?」と言い、おまえは家に入って休みなと声をかけてくれました。
母の現場検証は旦那に任せて、おじさんの家に入ると、おじさんはもちろん、私を責めるなんてことは一切なく、遠くから大変だったなと言ってくれました。おばさんも同じように労ってくれました。
ひとまず、今後の事を話し、本当は一緒に暮らすのが一番なんだけどと言うと、おばさんは、「だめだめ。あのわがままは一緒に暮らしたらまた迷惑かけるよ。今度はお前とお前の旦那の仲が悪くなってしまう。」と言いました。
本当は、この別荘に住ませてあげたいけど、とにかくあの妹(母)は、犬を家に連れ込んでしまうし、なのに掃除もできないからゴミ屋敷にしてしまう。だからどうしても一人で住ませるのは難しい。でも、いつかこの人(おじさん)が死んだら、妹と二人でここに暮らすつもりでいる。
そんな話をしてくれました。それはいつも母が嬉しそうに言っている話でした。
だけど、これからはお前とお前の旦那がこっちに来た時は、自由にここを使っていいから。その代わり、お母さんが犬をつれこまないようにだけ監視していてくれ、そう言って家の鍵を渡してくれました。
その気持ちがとてもありがたかったです。
私が、母の娘であるから、母の不始末も自分の責任でもあると感じているのと同じく、おばさんも実の妹がしでかしたことだからと思っているんだなと感じて、ちょっとだけ心強く思いました。
そんな風におじさんとおばさんと話しこんでいるうちに、聴取も仕上げに入るらしく、旦那から呼ばれたので、また隣の現場に戻りました。
来た時に、色々と説明をしてくれた消防の隊長が、これからのことについて、今まで同じように火事を起こした人達はどんな風にしたかなどの話を織り交ぜて話してくれました。
まずは、この燃え跡の処理です。
きちんとする人と、やっぱりしない人とがいるということ。
もちろんそれは莫大なお金がかかるので、できなくても責められないし、法律で決まっていることでもない。ただ、そうした場合、こんなことが起こり得たりしたことがあるそう。
例えば、台風なんかで鉄屑が近所に飛んで行き、二次災害となり、それがまた新たなトラブルを生んでしまったこともよくある話だそうです。
どうしても時間をかけると、まあいいかと放置を選ぶ人が多いから、可能なら一週間や二週間以内に動いてしまった方がいいです、と隊長が言いました。
そんなアドバイスは、ありがたい反面、一般常識的にはそうなんだろうけど、とにかくお金が全くない母と私にとっては、常識だけを気にできない問題でもあり、それを聞いて更に頭を抱える問題だなと思いました。
「火事の後始末というものは、本当に色々とあるから、一年はかかるものです。」
その隊長が言った言葉がズンっと心に残りました。
そうして、4時間近い事情聴取が終わりました。
最後に、情報をまとめて読み上げてくれましたが、それを聞いてますます、我が家の火事ってのは、なんていう馬鹿げた火事なんだろうと思いました。
”犬が蚊取り線香をひっくり返し”
”普段からその犬が蚊取り線香をいたずらしており”
恥ずかしいくらいに、馬鹿げた現実でした。
次々と引き上げて行く消防隊員の人達にお礼を言ってお見送りをしました。
その中の一人の人が、「お母さん、気を落とさないでしっかりしてくださいね!」と母の肩を叩いて優しく声をかけていってくれました。
実は、その人は以前、うちで生まれた子犬をあげたことがあった人だったそうで、(私からすれば、引きとってくれた人)
母は、そうやってこっちもやってあげたから、こうやって縁があって返してもらえたんだなと言いました。
相変わらず、なんだその考え方・・・と思いました。この期に及んでも、母の性格はしょうもなかったです。
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現場検証と事情聴取
朝、いとこのお兄ちゃんの奥さんが3人分のおにぎりを作って持ってきてくれました。いとこのお兄ちゃんが言ってくれたようです。
正直、食欲は全くなくても、こんな時にその気持ちはとてもありがたく、実際お腹は空いていたようでとても美味しくいただきました。
でも、母はやっぱり食べる気にもなれないらしく、一口齧って食べるのをやめました。
後で、味が美味しくなかったからと言う言い方をして、旦那に軽く怒られました。
そして、この日から忙しい日々が始まりました。
まず、この街に住んでいない私と旦那にはタイムリミットがあります。何より旦那も仕事を休んで来ているので、せいぜい一週間でなんとかできることを全部終わらせて、戻らなくてはいけません。
この日は朝の8時頃から、警察と消防署が来て現場検証と事情聴取が始まるようです。
結局、一睡もできなかったので、もっと早くに起きだしていましたが、母がすぐに家に向かいたいと言い出しました。でも、旦那は疲れていて、今日は長くなって疲れるだろうから今のうちに少し休みたいし、シャワーなども借りられるうちに浴びたいしで、結局は母の意見を却下して8時前くらいに向かいました。
すっかり日の光にむき出しにされた実家は、昨夜見たよりももっと火事の凄まじさを醸し出していました。
雨宿りすらできそうにないくらい、もう焼け残った残骸でしかありませんでした。
ゴミ屋敷状態だった我が家。物が散乱していて、母が色んな人からもらってきて、倉庫状態だった部屋の物もみんな燃え尽きていました。
実際、物が多かったから良く燃えたんでしょう。
圧倒されるような光景に呆然としている私を、放火魔の犬はひたすら吠え続けていました。
そして私達が到着するなりすぐに、警察と消防の人がやってきて、母を取り囲んで事情聴取が始まりました。
驚いたのはその人数の多さです。
警察の人が2~3人くらい、そして消防の人が10人くらいです。そして最後にスーツを着た人が二人。市役所の人でした。
「このたびは、大変でした。でもお母様が無事で何よりでした。」
みんなそう言ってくれました。
まず、消防のリーダーの人が簡単に説明してくれたのは、
今後の役所関係の手続きがかなりあって、消防署から出される罹災届けがかなり重要となり、何枚も必要になってくるということ。
それから市などからお見舞い金がいくらか出ること。
それらのために、現場検証と事情聴取は欠かせないということ。
あとは、この現場の後処理についても話してくれました。
ひとまず、市役所の人に、昨夜いとこのお兄ちゃんが話してくれた、臨時の住む場所について聞いてみました。
するとやっぱりそれはちゃんとあるようで、この後役所に戻って、なるべく早めに入れるように手続きをしてくれるということになりました。
それから、受けられる援助等もあるので、それもすぐに要請してみますとのことでした。
正直、いつもは大都市に住んでいるので、知らなければ教えてくれなかったり、困りごとがあっても何も勧めてくれないとか、役所に対してはそういうことが多かったので、役所側からあれこれ教えてくれるのは意外に思いました。
何か申請などをしても、何日かかりますとかそういうイメージだったのに、すぐに動いてくれるという事がありがたかったです。
田舎だからかもしれないけど、それでも地元の温かさを感じました。
火事に対しての知識なんて、はっきり言ってゼロでした。
まさか自分が、本当にそう思って、調べてみようなんて思いすらかすりもしないで生きてきましたから。それが、普通だと思います。
母の事情聴取については、付きっきりでなかったので、詳しくはわからないけど、基本的には事件性がないのかをはっきりさせるためでもあるようでした。
そして、なぜ昨日突然、いとこのお兄ちゃんの名前が警察から出てきたかと言うと、昨日の夜に日中何があったか聞かれて、布団をもらった件を話したからだったらしい。
警察からしたら、その布団に何か仕込まれていなかったかというのも”一応”疑っておく必要があるそうで。
そんなことは、身内からしたら1000%あり得ないんだけど、それでもそれが火事の事情聴取には必要らしいです。
だから、昨夜おじさんが俺が布団をあげたからだと落ち込んでいたんだなとわかり、本当に落ち込む必要のないことで、おじさんまで落ち込ませ、とんでもない巻き込みです。
他にも、最近誰かに恨まれることはなかったか、つまり放火の可能性はないのかを聞かれていたそうです。
まぁ、放火はまずないと思うけど、ここまで書いてきた少ないエピソードでもわかるように、母はとにかく自分中心の考え方の人物で、思ったことも心にしまっておくことができず、すぐに口にしてしまいます。
誰かに対しての陰口なんかも本当に多くて、何かと友人とも喧嘩別れをしてきたので、恨みを買っていても不思議ではありません。
だけど4時間近くに及ぶ検証の結果は、火元は母の言っていた通り、犬が倒した蚊取り線香で、火元も一致したという結果でした。
母がしつけもできず、自分の手に負えないくせに犬を増やし続けた結果です。
私の仕送りを全て犬に遣い、娘まで苦しめて、それでもまだ自分のおかしさに気が付いていないまさにアニマルホーダー。
そんな母に何度か注意はしたことがあったけど、すぐに喧嘩になったり、うざがられて電話を切られたり、そんなことばかりで強く言えなくなっていました。
まだ私が家に住んでいた高校生の頃までは、逆ギレさせて暴力も・・・そんなことまでありました。怖い、と言う気持ちもあったのかもしれません。
だけど、今はそれが後悔と言うよりは、こんなとことんなことまでしでかして、正直呆れていると言うのが一番近い気持ちです。
犬の事でお前に迷惑はかけない、いつもそう言い返してきた母。
でも結局、犬にかかるお金を要求されたことも山ほどあったし、この火事で、私のアルバムも、いつか懐かしく見ただろう小さい頃の思い出の品や卒業アルバムなんかも、唯一の財産だった一生物の着物も、全部燃え尽きてしまいました。
いや、本当はゴミ屋敷状態でもう見る気にもなれなかったので、とっくに犬によってぼろぼろにされていたのかもしれませんが。
だから犬だって被害者なのかもしれません。
自分の気持ちを書くと、とりとめがなくなってしまいます。
ちなみに母は、足腰が悪く、あまり長く立っていることが苦手です。
そんな母に消防の人は椅子まで用意してくれて、場所を移動して検証するたびに椅子まで移動させて母を座らせてくれて、こんな手間暇かけさせているのは母なのに、とてもありがたかったです。
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どこまでも自分勝手な思考
いとこの家に今夜は泊めてもらうことになり、家にあげてもらいました。
いとこのお兄ちゃんがやってきて、これからどうするのかと母にたずねました。
私は、一緒に来てうちで暮らそうと言いました。今残っている犬は、もらい手をなんとかして探そう。犬なら、私達のところにも実家から連れて行った子が一匹いるんだから、その子を可愛がってくれればいい。
でも母は、地元を離れたくない。この火事で怖い思いをさせてしまったあの子達をとても手放せない。と言いました。
あの犬達は、自分じゃなければ懐かない。あの犬達がいたから、生きてこられた。と。
この期に及んでもまだ犬なのかと思いました。
犬に対する愛情はわかります。私だって、愛犬をとても愛しているし、何があっても手放すつもりはない。それくらいの覚悟で家族として一緒に暮らしています。
でも、母の場合、度が過ぎているのです。ずっとそれに一番苦しめられてきたのは、私です。
これだけ、娘に心配をかけて、それでも犬なのかと思いました。ずっと私の心の奥に古傷として残っている、何年か前に言われた「お前は何もしてくれないけど、犬達は一緒にいて支えてくれている」と言う言葉をひたすら思い出しました。
「じゃあ、もう家もないのに、どうするの?」
すると母が答えたのは、駆けつけてきた私をどんどん突き放すだけの言葉でした。
”トランクルームなり、プレハブ小屋なり建てて、そこで暮らしたい。どうやら数十万で建てられるみたいだから。”
もう、何を言っているんだろうと言う感じです。
そもそも母は貯金はゼロだし、年金暮らし。数十万、そのお金だって、うちにしてみたら大金です。
その上、母は火災保険にも入っていなかったので、火事を起こしても本当に手元には一切のお金がないのです。
せめて、火災保険に入っていたら、あんなゴミ屋敷でも多少のお金はおりたんだろうけど。
旦那が口を開きました。
「それは無理だよ、お母さん。まずはあの火事の後始末をするのだって、これから凄いお金が必要になるんだよ。それに、こんな火事を起こしてそれでも犬とまた元通りに暮らしたいなんてありえないよ。」
いとこのお兄ちゃんもさすがに同意しています。
でも母はその気持ちを譲りません。「とにかく、あの子達がいなくなったら死んでしまう。」
その言葉を聞きながら、もうずっとこの人にとっての一番は私じゃなかったんだなと思いました。私って何なんでしょう。
もう、火事の理由からしてくだらな過ぎて、心が疲れきって何も言えません。
じゃあ、もう知らないよ。勝手に好きに生きて行きなよ!
そう言ってしまいたかった。
もし、そう言ったところで、ここにいる誰も私の事を責めないだろう。
でも、
それでも母を見捨てる気持ちになれませんでした。
だからと言って、優しい言葉も何も言えませんでした。
そこでいとこのお兄ちゃんがひとまずの案だけどと話してくれました。
火事に遭った知り合いがいて、しかもお兄ちゃん自身も以前少しだけ消防の仕事をしていたので、少しは知っていることもあったのです。
市の支援で、火事とか災害に遭って家を失くした人に、緊急で少しの間住ませてくれるところがあるらしいから、ひとまずはそこに移ればいいんじゃないかと言う案です。
とりあえず、明日すぐに市役所に確認しようと言う事で、今夜はもう遅いし寝ることにしました。
いきなりだったし、母と旦那と三人で雑魚寝です。
東京から持ってきたブランケットを母に渡し、ドンキホーテで買ってきた小さな膝かけをかけて寝ることにしました。
9月だったので、そこまで暑くもなく寒くもなくちょうどいい季節なのは幸いでした。
災害に遭って、家を失くした人達はこういう気持ちなんだな。避難所で寝るのは、こういう気持ちなんだなと思いました。
隣で横になっている母が眠れていないのがわかりました。
布団もないから、体も痛かったけど、寝返りを打って母に背中を向けるのも可哀想な気がして、だけど母と目を合わせる気にもなれず、ただ上を向いて目を閉じました。
私の写真も、大切なものたちも、みんな燃え尽きてなくなってしまったけど、母のこれからだけを考えました。
新しい家を建てて欲しいと言う母の希望、それを叶えられない自分の不甲斐なさ。
私も母との二人きりの生活に嫌気が差し、さっさと家を出て一人暮らしをして母を一人にしていたから。
一番自分勝手なのは、誰なんだろう。
結局、一睡もできませんでした。
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火事の原因
すぐに母に火事の原因を聞くと、一切予想もしていなかった答えが返ってきました。
「蚊取り線香」
それを聞いて絶句しました。
実家は平屋でした。母がいつも過ごしていた部屋から一番向こう側にある部屋の前に、母にしか懐いていない凶暴な犬を繋いでいるのですが、その犬のためにいつも蚊取り線香を置いていたそうです。
でも、その犬は蚊取り線香をいつも悪戯したり倒したりしていたそうで、ついにそれが火事を起こしてしまったそうです。
母は、そこから離れた部屋で夕飯も食べ終わり、うとうとしていたそうですが、なんだか煙くさいのに気が付き、部屋の襖を開けたらもう向こうの部屋は火の海状態だったそうで、靴も履かずに身一つで飛び出して、近所に助けを求め、近所の人が消防署に通報してくれたそうです。
てっきり、電気がショートしたとか、料理をしていて火を消し忘れたとか思っていたら・・・さっき、吠えまくってきたあいつ。
もう、心の中に湧き出たのは、呆れる気持ちとか小さな怒りとかでした。
私の人生は、母の犬病のせいでずっと苦しめられ、最後は母がちゃんとしつけもできずに増やした犬のせいで実家まで破壊された。
いやもう、犬のせいと言うよりも、結局は母のせい。
母も、適当に生きてきたせいで、結局そんないわば阻止できたことで大惨事を起こしたのです。
そんな何度もその犬が悪戯したり倒しているなら、蚊取り線香なんて置くのをやめれば良かったのに。それだけのことなのに。
結局、母の考えの浅さや世間知らずさがこんなことに・・・
だけど、目の前で明らかに落ち込んでいる母を責める気にもなれず。
私はただただそのくだらない原因に、そんな事実に、ショックを受けていました。
いとこのおじさんはなぜか、いや自分が原因だと言います。
話を聞いてみるとどうやら、今日冬用の厚めの布団をいとこのおじさんが母の元に持ってきてくれたそうです。
おじさんは、その布団が厚くて良く燃えるから、だから火が広まってしまったんじゃないかと、気にしているのです。まったく、何も悪くないのに。
そして、私達は洗濯機のせいだと思い・・・
なんだか、実際はこんなものなのかもしれないとも思いました。
思いもよらない
旦那が母に「今日買ってあげた洗濯機が原因だと思った」と言うと、「それは違う。洗濯機2回しか使ってないのに、せっかく買ってもらったやつ燃やしちゃった。」と母が答えました。
旦那がそこで母に言ってくれた言葉は、「それなら良かった。一応使ったんだね。全く使わなかったんじゃないから良かった。」という温かい言葉でした。
私が母に、優しい言葉や慰めの言葉をかける気にもなれない中、旦那が代わりに声をかけてくれていました。
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